ベゼクリク石窟寺院第4号窟壁画 誓願図(デジタル復元)




誓願図 カーシャパ仏とバラモン(346×300cm)


誓願図 舟上の仏と隊商主 (296×296cm)


誓願図 ディーパンカラ(燃燈)仏とバラモン(328×296cm)〔燃燈仏授記〕


誓願図 スネートラ仏と商主 (299×299cm)


龍谷デジタルアーカイブ

 龍谷大学は『類聚古集』(国宝)をはじめとする古典籍や、大谷探検隊が収集したシルクロード関係資料など、世界的にも貴重な歴史資料の原典を最先端の電子技術を駆使し、超高精細デジタル画像に変換して、保存・分類整理を行なうとともに情報発信しています。
 失われた仏教壁画のデジタル復元にも取り組んでおり、その成果は2003年9月に本学で開催された国際シンポジウム「仏の来た道 - シルクロード文物と現代科学 - 」において公開されました。中国新疆ウイグル自治区トルファン郊外にあるベゼクリク石窟第20号窟(ドイツ隊編号9号窟)にあった仏教壁画がそれで、失われた壁画を陶板で原寸大に復元いたしました。 その後も、世界各地に四散しているベゼクリク石窟の壁画断片を収集・管理(デジタルアーカイブ)し、その上でデジタル復元した壁画を公開していくという試みを、研究センターの2つのプロジェクトチーム(瀬田キャンパスを拠点とするデジタルアーカイブ方式研究チーム、大宮キャンパスを拠点とするコンテンツ情報解析研究チーム)が協同して行なっています。今回、NHK新シルクロードプロジェクトの協力のもと、エルミタージュ国立博物館、ニューデリー・インド国立博物館、韓国国立中央博物館、ベルリン国立インド美術館、東京国立博物館、そして中国政府・ベゼクリク現地所蔵のコンテンツのデジタル化とネットワーク化により研究がさらに進められました。

●ベゼクリク壁画復元

 復元映像は、デジタル復元した壁画を3次元的に復元した石窟内に配置し、その内部の回廊を表現したものです。デジタル復元された壁画データは、HDTV解像度(水平1920本、垂直1080本)の6倍以上の解像度を持ちますが、映像では、HDTV解像度に変換しています。2005年2月から3月にかけて、総合テレビにてNHKスペシャル「新シルクロード」第2集「トルファン 灼熱の大画廊」として放映されました。


ベゼクリク石窟寺院第4号窟壁画 誓願図(デジタル復元)


●ベゼクリク石窟寺院とは

 ベゼクリク(Bezeklik)はウイグル語で「絵のあるところ」「美しく飾られたところ」を意味し、ベゼクリク石窟寺院はトゥルファンの町から東に約40kmのところに位置します。20世紀初めには、ドイツのグリュンウェーデルやル・コック、ロシアのオルデンブルク、イギリスのスタイン、日本の大谷探検隊などが調査し、壁画等を採取しています。 石窟寺院内部はそれぞれ、描かれている壁画の保存状態が異なっており、内部に描かれた壁画が一部残っている窟、各国の探検隊が完全に持ち去ってしまい日干レンガだけになっている窟、など様々な状態です。

●第4号窟を復元した理由

 ドイツ隊が回収した第9号窟(中国編号20号窟)にあった無傷の仏教壁画はベゼクリク石窟を代表する壁画にととまらず、中央アジア仏教美術の傑作として世に知られています。しかし、その貴重な財産は残念ながら戦火で失われ、ドイツ隊の報告書でしか見ることはできません。第9号窟と姉妹関係にあるのが第4号窟(中国編号15号窟)で、第4号窟の壁画断片は現在各国の博物館に所蔵されています。20世紀初頭、すでに損傷を受けていたとはいえ、各国探検隊は4号窟壁画の価値の高さに気付き、自国に持ち帰ったというわけです。ドイツ隊も9号窟壁画よりも4号窟壁画の方が質は上と述べています。
 各国博物館に所蔵されている4号窟の仏教壁画はごく一部の研究者にしか知られていません。ベゼクリク石窟現地は壁面がわずかに残る程度で、壁画の剥ぎ取られた跡が痛々しく、中国人関係者を嘆かせています。剥き出しとなった日干レンガのところに、各国博物館に所蔵されている壁画を戻し、さらにウイグル仏教文化華やかなりし頃の壁画を甦らせる。これはデジタル復元であれば可能であり、テレビ媒体を使えば、多くの人が過去の文化遺産を「共有」できます。そこで、本センターは研究事業としてNHKと協同で壁画復元に着手した次第です。この研究事業は、画像空間の中で現地に将来品を還元するという試みだけでなく、新たなる文化財保存の方法を提示するものとなるでありましょう。
 第4号窟の壁画復元作業の際に資料となるものとして、スタイン、ドイツ(グリュンウェーデル、ル・コック)、オルデンブルグ、大谷探検隊、が収集している第4号窟の壁画断片のほかに、現地に壁画の一部が残っているものがありますが、それらを手がかりに復元を行ないました。
 第4号窟は壁画の内容が第9号窟と同じ構造と図柄で構成されており、すでに復元されて資料として残っている第9号窟を参考にして復元することが可能であると考えました。ただし、第4号窟は第9号窟に比べて損傷が激しいため復元作業はより複雑なものとなりました。

●壁画の配置と石窟の形状

 ベゼクリク石窟第4号窟は、回廊と呼ばれる外側のコの字の通路と、中堂と呼ばれる石窟寺院の中央に位置する四角形の空間で成っており、その壁面には余すところなく仏教壁画が描かれています。
 回廊の両壁面には個別のテーマに基づいて描かれた壁画が15枚あり、それらは誓願図と呼ばれています。団廊の幅は約1.2m、高さは約3.0mです。参観者は左側回廊から歩み始め、中堂に右肩を向け巡り歩いたと想定できます(仏教でいう右遶)。参観者が回廊を巡ると巨大な仏と相対し、参観者が王族や商人であれば自らを壁面の人物(前世の釈尊)に重ね合わせたと考えられます。

●壁画に描かれている内容

 壁画は誓願図と呼ばれる特異な図像で、回廊壁全面に誓願図を並べるということはベゼクリク石窟にしかみられません。誓願図とは釈尊が前世において婆羅門や国王や商主(長者)・隊商の頭であったとき、過去仏に供養し、成仏の誓願を発し、その仏より未来成仏の予言(授記)を得る場面を描いた図のことです。誓願図の基本型は中央に巨大な過去仏を描き、仏に礼拝し供養する菩薩(釈尊の前世の姿)をその左右に小さく描いています。前生の釈尊(菩薩)はたいてい国王や商人や婆羅門の姿をしており、菩薩の上部には僧侶、貴人、執金剛神、などが配されています。

●ベゼクリク石窟寺院回廊復元

 第4号窟は15面の巨大な誓願図から構成されています。回廊復元においてはこのうち4面 “カーシャパ仏とバラモン”(主題4:内回廊)、“舟上の仏と隊商主”(主題5:内回廊)、“ディーパンカラ(燃燈)仏とバラモン”(主題11:外回廊)、“スネートラ仏と商主”(主題12:外回廊)による部分回廊復元を試みました。今回の展示においては本館内展観室の構造上、変則的な誓願図配置となっています。

●龍谷大学からのメッセージ

 誓願図の描かれたのは西ウイグル王国の時代で、11世紀の頃とみなされています。「一切衆生の利益安楽のために」活動することを誓った釈尊の前生(菩薩)に共鳴したウイグル人の姿勢は、異質なものを排除する傾向にある現代社会に鋭い問いを投げかけるものと確信しています。壁画の中には異民族が共存したことを端的に示す図像もあり、「共に生きる」ことが痛切に求められている現代に対し、「共生」を掲げる「龍谷大学」として強く世界にメッセージを送りたいと思います。壁画の華麗さ、誓願の尊さ、そしてウイグル文化のすばらしさをひとりでも多くの方に共有していただきたいと念願しています。


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